アールヌーボー調のアンティークアクセサリーの中で、優しい輝きを放っていることの多い乳白色の「オパール」。とろりとした中に虹色のゆらめきが不思議な魅力となって、見る者をとりこにしてしまう宝石です。
繊細な色味と虹のゆらめきのもと
オパールは鉱物の中でも少し変わった性質を持っています。
成分自体は「酸化ケイ素」という、水晶やアゲートの仲間でありながら、水分を多く含み結晶化はしません。
れっきとした鉱物なのに、結晶しないなんて言われると不思議な気がしますよね。酸化ケイ素と水の分子がどういうわけか規則正しく整列し、あの不思議な遊色効果をもたらすと言われています。まさに神様の気まぐれでできた、大地からの贈り物といった宝石なのです。
オパールの色から見る特徴と、主要な産地について
古代からよく知られたオパールは、一説によればラテン語の「貴重な石」を意味する「オパルス」からきているとのこと。それほど古くから人々に愛され大事にされてきたオパールには、白から赤、濃青色から黒を基調とするものまで、多くの種類が知られています。
ブラックオパール
地色が黒や濃い青などのオパールの総称です。
オーストラリアで採掘され、宝石としての価値が見いだされてからまだ100年ほどの、オパールとしては比較的新しい種類です。このブラックオパールは世界の様々な所で採掘されますが、宝石としての価値が認められるのはオーストラリアのライトニングリッジで産出されるものだけです。
ブラックオパールの評価は一般的に地色が深い色味で、様々な色が鮮やかに見えるものが良いとされます。また、遊色効果をより楽しめるカボッションカットが理想とされ、日本では遊色に赤の入ったものが特に希少とされ人気があります。
暗い色の中にちらちら見える光をじっと眺めていると、いつのまにかオパールの世界に引き込まれ、夜空にきらめくオーロラを掌中にしているような気分になってしまうのもブラックオパールならではの魅力ですね。
ホワイトオパール
比較的よく見かけるオパールで、白色や乳白色などの地色を持つオパールです。とろりとした地色の中に赤色、緑色、青色などの色が揺らめくさまは、えも言われぬ魅力を持っています。遊色効果をより美しく楽しむために、カボッションのようなカットにされることが多く、その優しい雰囲気に魅了される人の多いオパールです。
ホワイトオパールはオーストラリア、サウスオーストラリア州が産地として有名で、別名「ライトオパール」とも呼ばれています。近年ではエチオピア産のオパールも市場に出回るようになり、その品質はオーストラリア産のものとくらべても遜色ないとも言われています。
(2020年現在、エチオピア政府によって、エチオピアオパール原石の輸出が禁止されています)
中世近世のヨーロッパでも人気が高く、柔らかなデザインの多いアールヌーボー調のジュエリーに、真珠や貝などとともによく使われています。またアングロサクソン文化の中では、現在でも婚約の象徴とされているとか。長い歴史の中で愛されてきた宝石なのですね。
クリスタルオパールとウォーターオパール
ホワイトオパールのなかで、地色が透明で強い遊色効果を持つものを特別に「クリスタルオパール」と呼ぶこともあります。
遊色効果の弱いもの、透けるような透明感のあるオパールはウォーターオパールと呼ばれ、カボッションカットにされることが多いようです。
ボルダーオパール
オーストラリアのクイーンズランド州で採掘される、ボルダーオパール。褐鉄鉱の母岩のすき間に挟み込まれるような形で採掘され、母岩とともに研磨されているのが特徴です。
一見弱点のように思える薄いオパール層ですが、一緒に研磨される母岩のおかげで遊色効果が強調され、強く華やかな輝きを放ちます。また母岩との兼ね合いで、様々な形にカットされているのも面白いところです。このように、深い青、水色、緑色の豊かな輝きと、個性的なシルエットがボルダーオパールの魅力でしょう。
ジュエリーとしてボルダーオパールが使われる際には、この自由な形が生かされ、オパールの中のきらめきと世界観が強調されるデザインが多く見られます。花やリボンなどの具象的なデザインにも馴染みがよく、持つ人の心を和ませてくれる宝石です。
ファイアーオパール
赤色からオレンジ、黄色や透明なものまで、基本的には遊色効果のないものをファイアーオパールと呼んでいます。赤やオレンジ、黄色などの豊かな色相と、地色の華やかさが好まれているオパールです。透明度が高いとファセットをつけてカットされることもあり、デザイン的にも自由度の高いオパールです。
産地として有名なのはメキシコです。ファイアーオパールのなかでも強い遊色効果を持つものを「メキシコオパール」と呼ぶことがあり、日本でもとても人気があります。
優しい色合いのイメージが強いオパールですが、赤く強い輝きをもつファイアーオパールは、独特な魅力を持った宝石といえます。
賢治の童話に閉じ込められた「オパール」
作品の中に多くの鉱物を登場させていることで有名な宮沢賢治も、蛋白石の不思議な輝きを『貝の火』という小説の中にえがいています。
「それはとちの実位あるまんまるの玉で、中では赤い火がちらちら燃えているのです。」
「玉は赤や黄の焔をあげてせわしくせわしく燃えているように見えますが、実はやはり冷たく美しく澄んでいるのです。目にあてて空にすかして見ると、もう焔は無く、天の川が奇麗にすきとおっています。目からはなすと又ちらりちらり美しい火が燃えだします。」
宮沢賢治『貝の火』より
この小説の中に「オパール」という呼び名は出てきませんが、持ち主の心を映すかのような宝石の様子は、ファイアーオパールを彷彿とさせます。オパールの輝きは、鉱物好きの宮沢賢治の心も魅了していたのかもしれませんね。
オパールの輝きを失わないための大事なポイント
成分として水を含んでいるオパールは、モース硬度も5~6程度とかなり柔らかい部類に入るので、扱いには十分な注意が必要です。身につけたあとは、柔らかい布で優しく汚れを拭き取ってあげてください。
オパールは成分の中にもともと水を含んでいることから、湿気に対して不安定です。できれば乾燥や過剰な湿気にはさらさないようにしましょう。また、オパールは多孔質なので、液体に漬けるのも避けたいところです。
ショーウインドウの中で強い光にさらされるのも、オパールにとって過酷な環境になってしまいますので、保管には細心の注意を払ってあげたいものです。
お気に入りの宝石を手元に置くということ
さて、先述の宮沢賢治の『貝の火』では、オパールが主人公の振る舞いによって輝きを増したり、曇って粉々に割れてしまったりと、まるで心を映す鏡のような宝玉として描かれています。主人公が善行を行って手に入れた宝玉を失っていく過程は、宝石のように美しい善意はまた脆いものだ、という寓意が込められているようにも感じます。ロマンチックなお話かと思いきや、ハッピーエンドではない結末が、ゆらめくオパールの御しがたさを暗示しているような読後感です。
実際のオパールは、勝手に輝きを増したり、自分から割れたりするような力を持ってはいませんが(当然ですね、笑)、もしも気に入ったオパールを手に入れたら、折に触れて覗き込んでみるのもいいかもしれません。宝石の輝きは不変と言われますが、その時の精神状態によって見え方は異なるものでしょうし、案外私達の心を映す鏡になってくれたら面白いですよね。
オパールに限らず、お気に入りの宝石を眺め、その美しさに癒やされながら心のバランスをとるというのもまた、ジュエリーの楽しみかたの一つかもしれませんね。
参考資料
監修スミソニアン協会、日本語版監修,諏訪恭一 宮脇律郎(2017)
『宝石と鉱物の大図鑑-地球が生んだ自然の宝物』日東書院本社
板谷英城(1994)『宮沢賢治 宝石の図誌』平凡社
宮沢賢治(2017)『宮沢賢治コレクション3-よだかの星』筑摩書房
“GIAウェブサイト”
<https://www.gia.edu/JP/home> 2020年10月23日最終アクセス