海から生まれた宝石 珊瑚
中国や地中海などで採取され、日本では高知県や沖縄県、五島列島や奄美大島など温かい海で採取されます。3月の誕生石、結婚35周年(さんご=3と5)を祝う石としても位置付けられています。珊瑚は日本だけでなく、世界各国でも宝飾品として古くから使用されてきました。日本産の珊瑚の始まりは19世紀に入ってからと、比較的新しいですが、仏教の世界では七宝の一つとして縁起物とされていたり、かんざしや高価な装飾品として珊瑚は使用されていきました。その際には地中海産の”胡渡り珊瑚(ペルシャなど西の方の国から来たものには胡を付けました。)”が用いられていました。
珊瑚は鉱物や植物ではなく、イソギンチャクやクラゲの仲間であり刺胞動物・花虫類に分類され、ポリプという種群に属します。とても小さな生物で珊瑚虫と呼ばれ、珊瑚虫が群生して硬くなったものが珊瑚になります。
珊瑚はサンゴ礁と宝飾用になる宝石珊瑚に大別されます。宝飾用に使われる珊瑚にはいくつかあり、その中でも赤色やピンク色に発色する宝石珊瑚には、八方珊瑚に分類されるアカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴ、ベニサンゴの4種類があります。鮮やかな血の塊を思わせるような赤色が高級で高い人気です。
禁じられた秘宝 土佐珊瑚
日本にはいくつかの地域で珊瑚が取れますが、特に有名なのは土佐珊瑚。
時は江戸時代末期の19世紀。
高知県の漁師がたまたま珊瑚を発見したことが、日本の宝飾珊瑚の始まりとされています。
それまで宝飾品とされていた珊瑚は、地中海産のものが主流でした。土佐で日本産珊瑚が採取されたことにより、日本の宝飾珊瑚の歴史は発展していきました。しかし、土佐で珊瑚が発見された当初、土佐藩は珊瑚の採取を禁止し、珊瑚の話をすることさえ禁じました。なぜなら、江戸幕府に強制的に珊瑚を取り上げられることを恐れたからです。このことは高知県に伝わる悲しい童唄「お月さんももいろ」からも伝わっています。このわらべ唄は、禁止されていた珊瑚=ももいろについて話してしまい、命を落とす海女の悲しいお話です。
そのような土佐珊瑚の悲しい珊瑚を取り巻く背景は、幕府が消滅した明治時代になり一変します。珊瑚の採取が自由になると、国内外から需要があり人気のものとなりました。赤や桃、白色の様々な色の珊瑚が採取され、中でも濃い赤色の血赤珊瑚は「トサ」と名前が付くほど。赤珊瑚が取れるイタリアやフランスなどのヨーロッパでは、血赤珊瑚の価値は非常に高く、「オックスブラッド」の名で人気を博しています。
吉凶を予言?珊瑚にまつわる様々な物語
珊瑚は各国で古くから親しまれてきた宝石であり、その長い歴史の中にはいくつかの珊瑚にまつわる物語が存在します。
古くはギリシャ神話から。
古代ローマに伝わるギリシャ神話に登場する英雄ペルセウスが、見たものを石に変えてしまう怪物メデューサを退治する場面。ペルセウスがメデューサの首をかき切り、そのときに流れた血が海に滴り落ち、珊瑚になったとされています。そのメデューサの血が珊瑚になったものを、海の精たちが世界各国に撒いたという伝説が残っています。
また、母なる海から取れる珊瑚は、子宝や安産祈願、出産に関してご利益があるとして、古くから各国でお守りになっています。
一方ロシアでは、触れた珊瑚の色が変化すると健康に対して不吉なことを予兆している、との謂れがありました。ロシア帝国史上最大の暴君として知られる、イヴァン雷帝は自らの手の上に珊瑚を乗せた時、棺衣の色の如く白く退色していく様を見ました。それからしばらくして、イヴァン雷帝は亡くなりました。珊瑚のお告げが当たったのでしょうか。それとも単なる偶然でしょうか。真相はわかりませんが、人々に恐れられた暴君の最後は珊瑚に予言されたものになりました。