ロウ付け(ロー付け)の世界

金やプラチナなどの貴金属を使って、美しい世界を表現しジュエリーとして昇華させる彫金技術。一般的にジュエリーを制作する技術を指して「彫金」と呼んだりしますが、実はたくさんの技術の集合体です。

その中でも基本的かつ最重要な技術、金属同士を接合する「ロウ付け」についてご紹介します。

ロウの種類と母材について

ジュエリーを「ロウ付け」と聞いてピンとくる人は稀かもしれませんが、鉄や銅を溶接する「ロウ付け」は金属加工をされている方にとっては一般的でしょう。

金属を溶接する方法のなかでいちばん有名なのは「はんだ付け」です。融点の低い「はんだ」という合金を使い、電気ゴテで加工できるので、やったことがあるという人も多いのではないでしょうか。

はんだより高い融点のロウ材を使う「ロウ付け」では、溶接する金属を“母材”と呼び、母材よりも融点の低い合金“ロウ”を溶かして接合部分に流します。はんだ付けと原理は同じで、合金の融点が低く母材自体が溶けずにすみ、母材同士を接着することができます。この“ロウ”合金は銀ロウ、銅ロウ、黄銅ロウなどいくつかの種類があり、母材によって使い分けられています。

銀ロウ

銀ロウは銀に銅と亜鉛を加えた合金です。母材がアルミとマグネシウム以外であれば使用でき、汎用性のあるロウ材です。色は銀色で、最も多用されているロウ材といえます。

銅、黄銅ロウ

どちらも銅と亜鉛の合金で、黄銅ロウは真鍮色をしています。その色味から銅や真鍮の溶接によく使われます。

リン銅ロウ

銅とリンが混ざったロウ材です。リンの還元作用があるのでフラックス(※)を使わずに作業できるのがメリットです。

※フラックス…硼砂のこと。ロウがよく流れるようにロウ付け部分に塗りつける。

アルミロウ

融点が低いアルミニウムは溶接が難しいといわれていますが、アルミロウでのロウ付けはコツを掴むことで容易になると言われています。母材はアルミに限られます。

一般的に溶接というと、アーク溶接などの電気溶接が頭に浮かぶかもしれませんが、異種類金属の溶接にはロウ付けが選択されます。ガスバーナーとロウ材を使った「ロウ付け」は、実はとても身近な技術なのです。

貴金属のロウ付け

さて、ジュエリー制作にあたって外すことのできない「ロウ付け」技術ですが、今日では一番重要といえるかもしれません。一度の鋳造でできる形状よりも、多くのパーツを寄せて作る複雑な形状のほうが、やはり見栄えがしますよね。

貴金属のロウ付けは、母材になる貴金属の性質によって多数のロウ材が存在するので、貴金属ごとに解説していきましょう。

銀(Silver)

価格も安く加工しやすい銀は、昔からジュエリーの世界で利用されてきた金属です。

銀の含有量によって融点が違い、融点の高い方から2分、3分、5分、7分、早ロウなど工業用の銀ロウよりも細かい種類が存在します。

銀ロウにたくさんの種類が存在するのは、母材である銀の“熱伝導率がよい”という性質が関係しています。ロウ付けの回数が1回であれば問題はないのですが、複数回ロウ付けする場合、2度目に火をかけると最初にロウ付けした部分が溶けてしまいます。これを避けるために1度目は高温で溶けるロウを使い、2度目以降は順に融点が低いものを使います。

金(Gold)

現代のジュエリーで多く利用されている金には、融点が高い方から18K、16K、14K、10Kと各種のロウ材があります。

金は銀ほどの熱伝導率の良さはないのでロウ付けしたい部分だけを局所的に熱することができます。ロウの種類はたくさんありますが、実際には1、2種類のロウで済むことが多いのです。

ロウ材を選択する場合は、できるだけ金の含有量が多いものを使用し、金の純度を落とさないようにしましょう。これは、金の再生時に品位を落とさないための工夫です。高温のロウ材は扱いが難しいものですが、なるべく慣れて高温のロウ材を使えるようにしておくと、表現の幅が広がっていきます。

プラチナ(Platinum 白金)

プラチナは融点が高く、加工技術が成熟するまでジュエリーにはあまり利用されてこなかったという歴史がある貴金属です。今日では酸素バーナーが普及し、ロウ付けも容易になりました。

プラチナを加工するPtロウは高温、中温、低温の3種類があり、酸素バーナーでの加工が必要です。その他にPロウと呼ばれる融点の低いロウが存在します。これはガスバーナーで溶けてくれるので、利用頻度の高いロウです。

酸素バーナーでのロウ付けは、プラチナが高温になり白色に輝きます。そのままでは目を痛めてしまいますので、必ず保護メガネを使用しましょう。

ロウの形状とロウ付け方法

各種のロウには板、線、粉状のものがあり、利用頻度の高いのはダントツで板状のものです。

板ロウ

各種のロウ材が用意され、彫金を初めたばかりの人にも身近な板ロウ。板状のロウ材は細かく切って使用することが多く、ローラーで延ばすことで微妙な量の調整が簡単に行なえます。ピンセットでロウ付けしたい箇所へ確実に置くことができるので、とても使いやすいロウです。

線ロウ

よく利用されるのは金の線ロウです。線状に加工された線ロウは専用のホルダーや、ピンセットでつまんで使います。専用のホルダーを使うと作業スピードが劇的に上がるので、数物をこなす場合に利用価値があります。

作業が早くなる反面、母材の温度調節や流すロウの量を調節するには慣れが必要なので、あまり初心者向けではないかもしれません。

粉ロウ

粉状のロウはフラックスと混ぜてペースト状にし、ロウ付けしたい部分に塗りつけて加熱します。粉ロウの利点は、量の調整が容易で確実に溶けてくれることでしょうか。

ロウ付けと時代背景

かつて大量生産をおこなっていた時代には、粉ロウとフラックスを練り合わせた“練りロウ”を、ロウ付けしたい部分に置いてオーブンのような加熱器具に入れ、いっぺんにロウ付けしたなんていう話もありました。

ここで挙げた線ロウや粉ロウの利用方法は一昔前のお話で、バブル経済が破綻したあと、廉価なジュエリーがたくさん出回った頃の昔話ですね。

伝統と技術の継承

現在ではオンリーワンのジュエリーや、手をかけた作品が見直され、ワックスパターンからのキャスト技術だけでは表現できない世界が評価されるようになってきました。その影響は技術面にも及んで、伝統的なロウ付け技術も見直されてきたようです。

何でも効率、時短がもてはやされる現代ですが、たくさんのロウ材を駆使して複雑な形状を作り出す技術を習得するには、経験と時間(コスト)が必要です。伝統的な技術を継承していくには、より美しいジュエリーへの情熱が必要なのかもしれませんね。

参考文献

秋山勝義 飯野一朗(2012)『彫金〈手作りジュエリー〉の技法と知識』東京堂出版.

塩入義彦(1996)『彫金の技法-ジュエリーデザイン-(新訂版)』理工学社.

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