地金吹きはSDGs?

貴金属を加工してジュエリーを作り上げる「彫金」は、ジュエリーCADを使い3Dプリンターで出力するのとは違い、手作業から得られる魅力がありますよね。もちろん技術の習得に時間はかかりますが、思い通りの作品ができあがったときの満足感は、代えがたいものです。

しかし、実際に貴金属を加工すると、地金のくずや粉がたくさん出てしまうことに気が付きます。くずとはいっても、1グラム数千円する金やプラチナを捨てるなんて、もったいないお話です!

そんな地金くずを自分の手元で再生する方法があります。昔の彫金工房では当たり前のように行われていた「地金吹き」という作業です。

地金くずを集める

彫金には、糸ノコでの切り回しやヤスリ作業など、地金のくずや粉が発生する作業があります。そんな地金くずや粉をもれなく回収するために、彫金机の下にバットを敷いて作業します。金、プラチナ、銀のバットを分けておくと、鋳溶かす段階で地金くずを分ける手間が省けるのでおすすめです。

ヤスリなど粉が出ると、手や袖口に貴金属の粉がつくので、必ず小判刷毛のようなもので払いながら作業をするクセをつけると良いでしょう。地金の粉が服につくのを防止する意味で、エプロンなどの前掛けを必ず着用することも忘れずに行いましょう。

リューターでのバフ作業も、手元に集じん装置があると安心です。こちらは地金を集める意味もありますが、研磨剤を含んだ粉塵を吸い込まないためにも用意したい設備です。

集めた地金をくずと粉にわける

自分で地金吹きをする場合、まずは地金くずを溶かすことをおすすめします。

地金の粉はどんなに厳密に管理しても、ロウ材などが混入して貴金属の品位が下がっているものです。不純物の混じった地金の粉を溶かして塊にしても、不純物が割れの原因になりますし、なによりも金性の刻印を打つことができません。

地金の粉は、分析の専門業者に委託して18KやPt900などにしてもらうのが無難です。

この方法を「分析に出す」といいます。彫金工房では地金の粉の他に、超音波洗浄機の汚水を煮詰めたものや、電解研磨の廃液なども分析に出して地金を回収することが一般的です。

分析の専門業者は、委託された地金くずを薬品で処理して、金、銀、プラチナ、パラジウムの4種類の貴金属を再生してくれます。手数料はかかりますが、現在は金の値段も高騰していますし、パラジウムに至っては1g8000円以上の価格になっています(2020年12月現在)。目の前に地金のくずがあるのなら、再生しない手はないのです。

地金吹きの手順

さて、自分の手元で地金を再生する「地金吹き」の手順を見ていきましょう。まずは必要な工具をあげます。

ガスバーナー

溶解する金属が金か銀の場合は、ガスバーナーで溶かすことができます。PtやWGの場合は酸素バーナーを使わないと地金がきれいに溶けません。

皿チョコもしくはるつぼ

金もしくは銀を溶かす場合は、皿チョコで問題ありませんが地金が食い込むことがあるので地金ごとに分けましょう。新しい皿チョコには、あらかじめ硼砂でガラス状のコーティングをしておくとよいです。

溶解温度の高いPtとWGは、セラミック製の専用るつぼを用意します。

炭素棒(なければ割り箸でも可)

金もしくは銀を溶かす場合は、炭素棒を用意します。溶けた地金を炭素棒でかき回して不純物や酸素をとりのぞきます。Ptの場合は不要です。

るつぼつかみ

高温に熱した、るつぼや皿チョコをつかみます。

あけ型

溶かした地金を流し込む鉄製の型で、横あけ型と縦あけ型があります。使用する場合はCRCなどを吹き付け、加熱してから地金を流し込みます。Ptはあけ型を使いません。

保護メガネ

PtやWGを溶かす場合は、保護メガネが必要です。

耐火レンガ

地金吹きは高温での作業になるので、耐火レンガでバーナーの熱を遮断するなど環境を整えることが大切です。周囲に引火しないように、細心の注意をはらう必要があります。

その他の注意点として、K18の地金吹きの場合は、溶解後に徐冷せず水か希硫酸につけて急冷し、必ずなますことが重要です。なましたあとは金槌でよくたたいて地金をしめてから延べだします。K18は硬いので繰り返しなましながら加工します。

K18の地金吹き手順

1:あけ型にCRCを吹き付け、バーナーで軽く加熱しておきます。

2:皿チョコに地金くずと硼砂を入れ、加熱します。(皿チョコが新しい場合はあらかじめ硼砂を入れて加熱し、ガラス質の被膜を作っておくとよい)

3:しばらくすると地金が溶け出し真ん中に集まってくるので、しばらく炭素棒でかき回します。かき回すことで地金の中の不純物と酸素を吸着させます。

4:全体が溶けたらるつぼつかみを使って、中の地金をあけ型に流し込みます。溶けた金属はすぐに固まりますので、すかさず水に入れて急冷します。あけ型がない場合は、皿チョコから少しずつ火を離し、硼砂が固まる前に地金を取り出します。地金の塊を裏返して硼砂を振り、再度バーナーの火をあてて表面を溶かします。表面の凸凹が溶けたら、水か希硫酸につけて急冷します。

5:酸化膜は希硫酸でとりのぞき、金床の上で金槌を使ってしめていきます。地金をたたいてしめ、地金が固くなったらなましを繰り返して、希望の形に整えていきます。

※Ptの地金吹きの場合は、溶かしてあけ型に流したあと徐冷することでなましが入ります。

以上のような手順で地金を再生します。

金や銀、Ptは比較的簡単に再生ができるので、道具や環境を整えることができるならぜひ挑戦してみてください。

SDGs=持続可能な開発目標と地金の再生技術

2020年東京オリンピックに向けて、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」という掛け声のもと、携帯電話や小型家電の基盤に含まれる貴金属を回収したのは記憶に新しいところです。もともと希少だから「貴金属」と呼ばれているのですから、再利用するのは当たり前に感じるかも知れませんが、「都市鉱山」はこれまであまり振り返られることがなかった概念でもあります。

2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」は、日本でもSDGs(エスディージーズ)という呼び名で話題にのぼるようになりました。これを彫金の世界に結びつけて考えると、古くから「再利用(リユース)」が当然の彫金業界は、そもそも持続可能な取り組みを行っているといえそうです。

彫金には関係ないように思われるSDGs問題ですが、自分の手元で「地金吹き」を行い地金くずの再利用ができるのなら、それに越したことはありませんよね。

さて閑話休題。

長年石留めをしている職人さんに聞いた話です。

仕事机の下に敷いていたじゅうたんを分析に出したら、数万円分の地金が出てきたとのことです。“チリも積もれば”を地でゆく話ですが、みなさんも地金の回収に気を使ってみませんか。案外お小遣いになるかも知れませんよ。

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