ヴァンクリーフ&アーペル、ハリーウインストン、ショーメなど、ハイジュエリーブランドのショーウインドウをのぞくと、色とりどりの宝石が輝いていますよね。強く輝きを放つダイヤモンドに始まり、ルビー、サファイア、エメラルド。優しい色合いの半貴石をふんだんに使ったネックレスなどは、見ているだけで幸せになれますね。
宝石を地金にセットする技術は「石留め」と呼ばれ、彫金のなかでも専門の職人がいるほど確立したジャンルです。天然の宝石は代わりの効かない一点物ですから、慎重に作業しないと割ってしまうこともありますので、当然、職人のテクニックが問われる世界なのです。
宝石の個性を引き出す石留め
石留めには、大まかに分けて2つの方法があります。宝石を地金の輪で覆って留める覆輪留め(ふくりんどめ)と、地金で石座を作りツメを立てて宝石をセットする爪留めです。
基本的にはジュエリーのデザインによって石留め方法を選びますが、カボッションカットであれば覆輪留め、ファセットカットであればツメ留めと、宝石のカットによってある程度好みが分かれるようです。
どちらが優れているということもありませんが、古い時代の装身具に多用されている覆輪留めは、地金で覆うため宝石の上面しか露出しません。その点、爪留めは下から光が入るので、より宝石が輝く良さがあります。
また、ファセットカットの場合、上面部分よりも下部が大きくなりますので地金でおおう覆輪留めよりも、ツメ留めのほうが軽やかなデザインにしやすいといえるかもしれません。
中石を美しく見せるツメ留め
ツメ留め
ツメ留めに向いているのはファセットカットだけではありません。不定形な天然石なども比較的簡単に留める事ができるのでおすすめです。
その他にもマーキスカット、ペアシェイプカット(しずく型)、オーバルカット(楕円)、ステップカット(スクエア)などいろいろなカットと相性の良いツメ留めですが、デザインによっては爪が引っかかるなどのデメリットもあるので注意が必要です。
立爪(たてづめ)
婚約指輪の中石は多くがラウンドブリリアントカットされたダイヤモンドです。その輝きを最大限引き出すために、爪留めのなかでも立爪(たてづめ)というセッティングが多用されてきました。ツメは太く内側を磨き上げるので、光が反射して中石を華やかに見せる効果があります。また、ツメの肩を張り出させるデザインなので、中石が大きく見えるのもメリットです。
ティファニーセッティング
立爪のなかでも、ツメの上面の面積が小さい留め方は、「ティファニーセッティング」と呼ばれます。アメリカのブランド、ティファニーが考案した石留め方法で、ツメをできるだけ小さく整え中石を美しく見せるため、現在でもとても人気のあるデザインです。
もちろん、ティファニーセッティングだからといって、ティファニーにしかないわけではなく、婚約指輪の定番デザインとして広く普及しているツメ留めです。
やさしい印象の覆輪留め
覆輪留めもしくはフセコミ
覆輪留めは古代の装身具でも使われている石留め方法です。現代でもカボッションカットの半貴石に多用されているので、目にすることの多い石留めといえます。
石留めしたい宝石の周囲を地金の輪で覆い、地金全体を倒して石を固定するので、デザインはつるんとした仕上がりになり、ジュエリー全体との一体感が出て、やさしい印象になります。
制作にあたっての注意点は、カボッションの高さによって覆輪の高さを調整しなければならないところです。一概にはいえませんが、高さのあるハイカボッションや、高さのないフラットカボッションは、覆輪留めが難しい場合があります。
また、ダブルカボッションのように下部がフラットでない石は、覆輪の底板を削り込んで座りを良くするなど、ひと手間必要です。
デザインを強調する彫留め
職人の技術がはっきりと出てしまう石留め方法が「彫留め」です。ジュエリー本体にメレダイヤを石留めすることが多いので地味に感じるかも知れませんが、技術的に習得が難しい石留め方法です。
彫留めのメリットは、メレダイヤを埋め込むことで地金の造形が際立ち、中石を強調できる点です。デザインによってはサファイアやルビー、半貴石などを留めることもあり、小さな宝石でジュエリーを効果的に彩ることができる石留め方法といえます。
彫留め
彫留めは、タガネを使って地金を彫り、石留めするものを総称して呼びます。
地金に石留めしたい石の直径よりも小さな下穴を貫通させ、石の下部の角度に合わせて座をけずります。石の周辺の地金を掘ってツメを起こし、石留めします。仕上がりのデザインによっていくつかの名前があり、それぞれ美しさがあります。
つなぎ留め
メレダイヤを一列に並べる彫留めです。メレダイヤの上面があっちこっちに向かないようにセットすることが重要で、面を揃えることで美しさが倍増します。
マス留め
メレダイヤの周囲をタガネで四角く面取りしたデザインです。面取りした部分がキラキラ輝くので、メレダイヤが大きく見える作用があります。
五光留め
18金の印台型リングに五光留めのダイヤをあしらうデザイン。かつては男性に大人気でしたが、今となっては少し古臭く感じてしまうかも知れませんね。しかし、キリッとした彫留めの美しさは職人の技術が光る石留め方法です。
レモン留め
メレダイヤの周囲をレモン型に面取りし、2本のツメで石留めします。レモン留めのほかにも、ジュエリー本体のデザインを考慮していろいろなバリエーションがあるので、ジュエリーブランドに足を運んだ際によく観察してみると、とても勉強になりますよ。
パヴェ留め
パヴェとは石畳のことをさすフランス語です。文字通り、メレダイヤを石畳のように敷き詰める石留めのことを指します。パヴェは細部に職人の技術レベルが現れるので、少し嫌がられる可能性はありますが目にする機会があれば表裏をじっくり観察しましょう。
半貴石の彫留め
メレダイヤの彫留めに比べ、丁寧な作業が求められるのが半貴石の彫留めです。メレダイヤなら少しテンションが掛かったところで割れることはまずありませんが、半貴石は少しの抵抗でも割れてしまいます。また、ファセットの下部が不揃いであったり膨らんでいたりするので、石座の彫り込みにも気を使います。
ツメを倒すときにも注意しないと欠けてしまいますので注意が必要です。欠けるのが怖いからといってツメの倒しが甘いと、石が外れてしまいますので気をつけましょう。
現代のジュエリーに欠かせない石留めの技術には、上記のようにたくさんの方法があり、その特徴によって使い分けることで美しさも飛躍的に伸びます。デザインをおこす段階でどのような石留め方法を使うのか、思い描くのも楽しい作業かも知れませんね。
石留めを学ぶ
大きな中石を石留めするには、地金を思い通りに扱う技術が必要ですし、小さな石を彫り留めするには、タガネを使った彫留めの技術が必要になります。
特に彫留めに関しては、書籍で学ぶだけでは習得が難しい技術です。実際の作業を見せてもらえる良い「先生」を見つけることは、技術を身につけるために必要なことだと思います。これから石留めを学んでみたいという方は、お近くの彫金教室のとびらを叩くことをおすすめします。
これから石留めを覚えるのであれば、タガネの作り方や、ヤニ台のあつかい方など、石留めを始める以前の技術も覚えなければならないでしょう。そんな一つ一つの技術を大事に身につけて、ぜひ美しいジュエリーを生み出す職人になっていただきたいと思います。