魅惑的な「磨き」の世界

シルバーの優しい輝き、華やかなゴールドの黄金色、深く底光りのするプラチナの色。

ジュエリーの魅力である、それぞれの地金の輝きを引き出すのは、「磨き」の技術です。

磨き上げる金属によって布バフや研磨剤の種類を使い分け、いかに手早く仕上げるか。どの研磨剤をどのくらい使うと効果的なのか…。彫金を志す人にとっては悩ましい題材ですが、まずは「磨き」の工程と使われる道具からひもといていきましょう。

バフ前の処理について

これは当然なのですが、バフをかける前に磨く製品の形を整えておかないといけません。大きめの傷はヤスリで取り、ス(鋳造時にできた小さな穴)は埋めます。バフでなんとかしようとするよりも、前段階をしっかりやりきることで次工程が楽になります。

ペーパー

エッジをたてるところはたて、甲丸は甲丸らしくヤスリからペーパーまでかけておくと、バフ作業がとても早くなります。(現場によっては、あまりかけている時間はないかもしれませんが)

ヘラ

金属の表面に押し付けて磨き、光沢を出します。ヘラでこすることで地金の表面が固くなり、しまってきます。これを「ヘラじめ」などと呼ぶこともあります。

バフの種類

彫金の磨き工程では、バフモーターという機械にバフを取り付けて研磨し、リングの内側などはリューターを使います。ここではバフモーターにつけて研磨に使う板バフ、フエルト、布バフなど、それぞれの特徴とメリット・デメリットを挙げていきます。

板バフ

ボールバフ、ボードバフと言われる硬い板状のバフです。側面を使って平らな面を出す事ができ、組み合わせる研磨剤はグレー(N-500)がおすすめです。板バフを使いこなせると、ヤスリでは難しいフラットな面を出すことができ、ダレてしまいそうなリングの側面などを形良く仕上げることもできます。

フエルト

フエルトでできたバフで硬さが数種類あり、研磨剤をつけて使用します。研磨力が大きいのでちょっとした鋳肌などはすぐに磨けてしまいますが、地金の減りが早いので、1ヶ所だけをしつこくかけたりしないようにしましょう。

組み合わせる研磨剤は荒仕上げ~中仕上げがおすすめです。また、摩擦が大きく地金が熱くなるので、やけど注意です。

布バフ

布バフは材質によって数種類あります。ミシン目の入り具合で硬さが違うので、ミシン目によっても使用する仕上げの段階が変わってきます。また、研磨時に布バフが一枚だと頼りないので、2枚を合わせて使うのが一般的です。

青バフ

薄手の帆布のような硬めの生地でできていて、ミシン目の入り方で硬さが違います。研磨力がある方から「ウズ」「蛇の目」「バラ」があり、荒~中仕上げ用の研磨剤をつけて使用します。一番よく使われる布バフで、荒仕上げ~中仕上げの段階に使われます。

ブロード

ブロード綿でできた布バフです。こちらもミシン目の入り方で硬さと研磨力が変わります。中仕上げから仕上げに使われることが多く、ブロードの良さを殺さないよう研磨剤は仕上げ用がおすすめです。

トクハネ(キャラコ、白バフ)

トクハネは柔らかい綿で、ミシン目の入ったものと入らないものがあります。とても柔らかい布なので、最終仕上げに使われます。組み合わせる研磨剤も、仕上げ用や艶出しなどが適しています。艶出しは方向を変えて当てるようにすると、バフ目が消えて鏡面に近づきます。

研磨剤の種類と用途

研磨剤にはたくさんの種類があり、ここで全てを挙げるのはむずかしいので主なものを挙げていきます。

荒仕上げ

トリポリ

フエルトや青バフと組み合わせて、下磨きに使う研磨剤です。研磨力があり荒いので、気をつけないと形がダレます。柔らかい布バフには向きません。

グレー(N-500)

荒仕上げ用の研磨剤でトリポリよりも細かいのですが、組み合わせるバフによっては研磨力が期待できます。フエルトや板バフ、青バフとの組み合わせがおすすめです。

中仕上げ

白棒(#800~#8000)

白棒には荒仕上げ用の#800~1500、中仕上げ用の#2000~4000、仕上げ用の#6000~8000があります。それぞれ用途に合わせて使いますが、全て白い研磨剤だと見分けにくいので、白棒で揃えることはあまりないかもしれません。

最終仕上げ

D-24、D-36

プラチナの仕上げから最終仕上げ用の研磨剤です。D-36のほうがより細かいです。

組み合わせるバフは、ブロードから白バフの柔らかい布バフがおすすめです。

ノンクロン

銀やプラチナの最終仕上げ用の研磨剤です。仕上げ用の白バフにつけて、艶出しに使います。

金ピカ

金の最終仕上げに使います。商品名そのままですが、白バフにつけて艶出しに使います。

青棒

銀、金、プラチナなどの仕上げに使います。どちらかというとオールマイティーな使い勝手で、貴金属以外の金属磨きにもよく使われるので、一般的によく知られている研磨剤です。

その他にもプラチナに特化した「Pピカ」や、「銀ピカ」など多種類が市場に出回っています。好みで使い分けるのがよいと思いますが、基本的には研磨剤は3~4種類があればしっかり仕上げることができるでしょう。

磨きの技術とは

磨き作業でまず思いつくのは、「やけどに注意」かもしれません。商品を飛ばされないように、角度を工夫して当てることも重要です。バフモーターに髪を巻き込まれないようにするなど、基本的な安全作業を心がけるのはいうまでもありません。

その上で、作業工程から布バフの順番を決め、組み合わせる研磨剤はその布バフの守備範囲よりも少し仕上げ寄りの研磨剤をチョイスするのがおすすめです。

また、なかなかきれいに光らない時は1つ前の工程に戻りましょう。残ってしまった小キズなどは、最終仕上げのバフではきれいになりません。磨けば磨くほど、形がダレていくだけ。次の工程でなんとかしようと思うのが人情ですが、研磨作業にとって“横着”は敵なのです。

技術に対して誠実に向き合えば、必ず輝いてくれる貴金属。こんなところが「磨き」の良いところかもしれませんね。

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