ジュエリーの地金は、金や銀、プラチナなどの貴金属が多く使われています。その多くは明治期以降に西洋から持ち込まれた基準で作られた合金です。
金であればK24が純金です。K18なら金の含有量は75%、残りの25%は銀と銅が混ぜられていて、銅と銀は割金(わりがね)と呼ばれます。
プラチナであれば純プラチナを1000として、パラジウムなどの割金を混ぜてPt950、Pt900、Pt850にします。純プラチナは柔らかすぎて加工に向かないので、上記のような割金を混ぜて硬さを出した合金が広く流通しています。
しかし、日本には明治期以降に伝わった「彫金技術」とは異なる伝統技法が存在しました。その伝統技法は古く古墳時代に大陸から伝わったとされ、長い間に独自の彫金技術を進化させ、いくつもの合金が作られてきました。
そんな伝統工芸に見られる、色金(いろがね)の世界について見ていきたいと思います。
色金の種類と特性
銅の合金
黄銅
銅と亜鉛の合金。亜鉛が20%以下のものを丹銅、30%、40%のものを真鍮と呼びます。展延性に優れ絞り加工性も良いので、装身具のほかに金管楽器にも使われます。
青銅
銅と錫の合金で、ブロンズと呼ばれています。古代の日本では銅鏡の材料として使われていました。錫の含有量によって、白銀色から赤銅色までバリエーションがあります。ちなみに赤銅色のブロンズは、10円玉の素材です。
白銅
銅とニッケルの合金で、現代では100円玉の素材です。「白銅」とは、古い時代の日本では白銀色の銅と錫の合金を指す呼び名でした。
赤銅(しゃくどう)
日本独自の合金で、銅に数%の金が入っています。金の含有量で1分挿し、3分挿し、5分挿しと呼ばれ、地金は銅よりも固くなります。
「煮色仕上げ」という薬品処理で、黒く変化します。その黒はカラスの濡れ羽色に例えられ「烏銅(うどう)」とも呼ばれます。
赤銅1分挿し
金の含有量が1%の1分挿しは、煮色仕上げで真っ黒に変化します。
赤銅5分挿し
金の含有量が5%の5分挿しは青みがかった黒に変化します。赤銅のなかでは、最も美しいと言われています。
赤銅8分挿し
金の含有量が7~10%の8分挿しは、紫がかった黒に変色して「紫金(むらさきがね」」とも呼ばれます。
四分一(しぶいち)
日本独自の合金で、銅に銀が混ぜられています。銀の割合で白四分一から黒四分一まで色のバリエーションがあります。煮色仕上げ後の銀灰色は美しく、朧銀(ろうぎん、おぼろぎん)などという呼び名もあります。
白四分一
銅と銀の割合がそれぞれ40:60、煮色仕上げで灰白色に変化します。
並四分一
銅と銀の割合がそれぞれ70:30、煮色仕上げで暗銀灰色に変化します。
上四分一
銅と銀の割合がそれぞれ60:40、煮色仕上げで並四分一よりも白っぽい灰色に変化します。
黒四分一
四分一と赤銅を40:60の割合で、さらに1~2%の金を合わせた合金です。煮色仕上げでは、赤銅の青みがかった黒とは異なる黒色に変化します。
洋白
銅とニッケルと亜鉛の合金、洋銀とも呼ばれます。硬貨の材料や食器に使われます。
以上のように、銅や銀の合金は数多く、日本独自の合金も多く存在します。また煮色仕上げのような薬品処理によって、それぞれの合金の美しさを引き出す技術も日本独自のもの。現在でも多くの彫金作家によって伝統技術が守られているのです。
色金を生かした表面処理「煮色仕上げ」
煮色仕上げとは、銅合金を薬品につけて煮込むことで、酸化皮膜を定着させる技法です。
煮色仕上げに使う薬品液を「煮色液」と呼び、水1リットルに対し硫酸銅を4g、緑青を4g混ぜて煮溶かしたものです。
煮色仕上げの手順
色揚げしたい品物を重曹などでよく脱脂して、大根おろしを全体に乗せ、煮立った煮色液の中に漬けます。そのまま30分から1時間くらい煮込みます。
時折取り出して色の変化を観察し、銅が柿色に変化して良い色になったところで取り出します。この段階で色むらができてしまったら、磨きからやり直しです。
きれいに水洗いしたあとに透明なラッカーなどを塗り、酸化による変色を防ぎます。
大根おろしの匂いとともに思い出される煮色仕上げですが、大根おろしのかわりに焼きミョウバンを使ったり、梅酢を加えたりするバリエーションがあるようです。インターネットでは大根おろしを使わない方法も紹介されていて(ウィキペディアなど)実際にどちらが良いのかは、実際に煮色仕上げを行うかたにおまかせしたいと思います。
煮色仕上げ以外の銅着色法
緑青仕上げ
銅は経年によって緑青をふきますが、この緑青を人工的につける「緑青液」というものもあります。
水に酢酸銅、硝酸銅、みょうばん、塩化アンモニウム、塩化第二水銀を混ぜ、よく溶かし込みます。緑青をつけたい部分に緑青液を塗り、バーナーであぶって乾かします。この作業を数回行うと、美しい緑青仕上げになります。
いぶし加工
ムトーハップでもいぶしたような黒または赤銅色に変色させることができます。
水200ccにムトーハップ小さじ1を混ぜた液体を銅の表面に塗り、日光に当てて黒変させます。
ムトーハップは現在製造中止になってしまいましたが、手軽に銅をいぶし加工できたので便利な薬品でした。
現代に受け継がれる技術
さて、以上のように日本独自の銅合金にはたくさんの種類があり、美しい色味を引き出す煮色仕上げも伝統工芸の中で受け継がれている技術です。特に煮色液の配合や、手順にはバリエーションがあり、文献を調べていく楽しさがあります。
とはいえ、薬品を揃えたり、色金を入手したりと、煮色仕上げを個人宅で楽しむのにはハードルが高い技術です。
気軽に挑戦できませんが、美術館などで巡り合うことができたら、ぜひじっくり鑑賞してみてください。煮色仕上げされた銅の柿色、四分一の銀灰色、赤銅の黒は上品でありながら力強い美しさがあります。一度目にすると、より一層、彫金の世界に引きずりこまれるきっかけとなるに違いありません。